渋皮煮が硬い・美味しくない原因は?実は調理前の栗の保存方法にあるかもしれません

栗の渋皮煮

栗が生ものだという意識、ありますか?

お肉やお魚を買ってきたら、
「早く冷蔵庫に入れなきゃ」
「今日か明日には使わなきゃ」と、
自然に思いますよね。

いちごやいちじくのように、やわらかい果物も同じです。
見るからに傷みやすそうなので、
長く置いておこうとは思わないはずです。

ところが、栗はどうでしょう。

竹のかごに入れた生栗

硬い鬼皮に包まれていて、中の状況がまったく見えません。
しかもスーパーでは常温で売られていることも多いので、
「しばらく置いておいても大丈夫そう」と感じてしまう。

でも、栗も生ものです。

買ってきてからの扱い方によって、
品質がどんどん変わってしまう食材なんです。

この時期になると、生徒さんからこんなお話を伺います。

「今回の渋皮煮、硬く仕上がっちゃった」
「なんだか、あんまり美味しくなかった」
「処理してみたら虫だらけで、嫌になっちゃった」

渋皮煮がうまくできなかったとき、
皆さん、とても熱心に原因を考えていらっしゃいます。

煮方が悪かったかな。
お砂糖を加えるタイミングが早すぎたかな。
お砂糖を入れてから煮すぎたかな。

でも、不思議なことに、買ったあとの栗をどう管理していたか、
というお話はあまり出てきません。

もしかしたら、原因は調理する前の段階にあるのかもしれません。

私自身、長年お菓子教室で栗を扱ってきて、
あちこちで断片的に知っていたことや、
ずっと気になっていたことがありました。

そこで、この機会に一度、しっかり調べ直してみたんです。

県の農業研究機関の報告書などをあたってみると、
知っているつもりで知らなかったことも多く、
私自身、改めて学ぶことがたくさんありました。

もちろん、私は栗の生産や流通の専門家ではありません。

今回は、調べてわかったことと、
私が教室で感じてきたことをお伝えしたいと思います。

少しマニアックな話も入りますが、
お菓子作りが好きな方はもちろん、
お菓子を仕事にしている方、これからしたい方にも、
ぜひ知っておいていただきたい内容です。

栗が待ってくれない3つの理由:乾燥・傷み・虫

調べてみて、栗を早く処理したほうがいい理由は、大きく3つあると感じました。

乾燥、傷み、そして虫です。

乾燥:硬さの原因になりうる

栗は硬い殻に守られているので、
乾燥には強そうに見えます。

でも実は、乾燥に弱い食材なんだそうです。

茨城県の研究報告では、栗を室温に置いておくと、
1週間で重さが1割以上減る例が紹介されています。

減った分の多くは、栗の中の水分です。

あんなに硬い殻に包まれていても、
これだけ水分が失われてしまうんですね。

これは私の推測ですが、水分が抜けてしまった栗で渋皮煮を作れば、
硬く仕上がる原因の一つになっても不思議ではないと思っています。

乾燥と渋皮煮の硬さを直接結びつける研究を
確認できたわけではありません。

ただ、材料の状態が仕上がりに影響することは、
お菓子作りをしていると日々感じることです。

傷み:中だけ腐っていることも

もう一つ気をつけたいのが、カビや腐敗です。

栗は、気温の高いところに置いておくと、
思いのほか早く傷みが進むことがあります。

しかも、栗の病気の中には、殻の色は変わらないまま、
中の果肉だけが黒く腐り、あとから殻が変色してくるものもあるそうです。

硬い鬼皮の中で何が起きているか、外からは見えない。
ここでも、栗のやっかいなところが出てきます。

中が傷んでしまった栗は、どんなに丁寧に煮ても、
美味しい渋皮煮にはなりません。

もちろん、カビや腐敗が疑われるものは使わず、取り除くようにしましょう。

虫:育つほど、果肉が食べられていく

そして、虫です。

栗の中には、クリシギゾウムシという虫の
卵や幼虫が入っていることがあります。

少しマニアックな話ですが、
この虫は殻に小さな穴を開けて、
栗の内部に卵を産みつけるそうです。

孵化した幼虫は、最初は渋皮に沿って浅く食べ進み、
育つにつれて果肉の内部を食べていきます。

被害の初めのうちは外からわかりにくく、
産地でも完全に選び分けるのは難しいとのこと。

そして、ここで重要になるのが保存温度です。

岐阜県の研究では、9℃以上で保管すると幼虫が育ち、
殻の外に出てくることが確認されています。

つまり、台所などに常温で置いている間にも、
栗の中では虫が育っている可能性があるんですね。

ちなみに、幼虫が食べた跡には細かいフンが詰まっています。

岐阜県の別の研究では、果肉が2mm以上食べられているものを、
利用に支障がある被害として扱っていました。

渋皮煮は、渋皮をつけたまま丸ごと煮るお菓子です。

せっかくきれいに鬼皮を剥いても、
中を食べられてしまっていたら使えませんよね。

売られている栗の状態は、実はいろいろ

今回調べてみて、私が一番知っておいていただきたいと思ったのが、
売られている栗は、どれも同じ状態ではないということです。

購入した栗

収穫したばかりのものもあれば、
虫の被害を防ぐための処理をしたもの、
低温で熟成させたものもあります。

しかも、殺虫と熟成を一度に行っている場合もあるんです。

どういうことなのか、順番にお話ししますね。

取れたてをそのまま出荷する栗

収穫してすぐ、殺虫処理などをせずに出荷される栗です。

こうした栗には、虫の卵が入っている可能性があります。

「取れたてだから新鮮で安心」と思いがちですが、
だからこそ早めの処理が大事なんですね。

ちなみに、栗の商品説明で「無くん蒸」
という言葉を見かけることがあります。

くん蒸(くんじょう)というのは、
薬剤を使って虫を駆除する処理のこと。

「無くん蒸」は、この薬剤による処理をしていないという意味で、
殺虫処理を一切していないとは限りません。

ほかの方法で処理されている場合もあるので、購入時に確認するとよいですね。

殺虫処理をしてある栗

以前は、薬剤によるくん蒸で虫を駆除してから出荷する方法が広く使われていました。

近年は、薬剤に頼らない方法への切り替えが進んでいます。

例えば、こんな方法があります。

  • 氷蔵処理:0℃より低い温度に管理された専用の貯蔵庫で、数週間かけて殺虫する方法
  • 温湯処理:温度を管理したお湯に栗を一定時間浸ける方法
  • 蒸熱処理:蒸気で温めて殺虫する方法

ちなみに、低温で殺虫処理をしたからといって、中にいた虫が外に出ていくわけではありません。

卵や小さな幼虫が栗の中に残ることもありますが、適切な温度と期間で処理することで、幼虫の成長を止めたり、殺虫したりできるわけです。

つまり、果肉を食べられてしまう前に、被害を防ぐことが大切なんですね。

氷蔵処理は、殺虫と熟成の一石二鳥!

ここからが、今回調べていて面白いなと思ったことです。

栗は低温で貯蔵すると、デンプンの一部が糖に変わり、甘みが増していきます。

これは、ご存じの方も多いかもしれませんね。

茨城県の研究では、0℃で1か月半ほど貯蔵すると、
蒸し栗の糖度が12.1%から16.5%に上がったという報告もあります。

ところで、先ほどお話しした氷蔵処理。

殺虫のために、0℃より低い温度で何週間も貯蔵する方法でしたよね。

ということは……。

殺虫のために栗を低温で貯蔵することが、
結果的に甘みを増すことにもつながるんです。

実際、茨城県の報告でも、氷蔵庫で−2℃・約4週間貯蔵した栗で、
高い殺虫効果と、調べた10品種すべてで糖度の上昇が確認されています。

虫の被害を防ぎながら、栗の甘みも増してくれる。
まさに一石二鳥の方法なんですね。

もちろん、殺虫とは別に、
甘みを増すことを主な目的として低温貯蔵する場合もあります。

つまり、「殺虫処理をした栗」と「熟成させた栗」は、
必ずしも別々のものではないということです。

ただし、お湯で殺虫処理をした栗の場合は、話が別です。

茨城県の研究では、50℃で30分の温湯処理をした栗は、
そのあと貯蔵しても糖の量が変わらず、
貯蔵中にカビが多くなることもあったそうです。

殺虫処理済みだからといって、
熟成されているとは限らないんですね。

私が普段渋皮煮に使っている、杉並区の内藤農園さんの栗も、
収穫後に低温貯蔵され、
甘みが増した食べ頃の状態で売ってくださいます。

だから私は、買ったらすぐ処理する、
というのが当たり前になっていました。

商品ページに「熟成」「氷蔵」「氷温」などと書かれていたら、
どんな温度で、どのくらいの期間貯蔵されたものなのか、
ちょっと確認してみると面白いと思います。

ただし、熟成や殺虫処理が済んでいる栗でも、
常温で長く置いてよいわけではありません。

低温貯蔵した栗は、貯蔵庫から出したあとはカビが発生しやすいので、
その日のうちに加工するよう勧められています。

せっかく生産者さんが食べ頃に仕上げてくださった栗ですから、
できるだけ良い状態のうちに使いたいものですね。

家で栗を保存するなら、「冷蔵室」と「チルド室」の違いに注意!

ネットの記事などで、
「買ってきた栗をチルド室に何週間か入れておくと甘くなる」
と紹介されていることがあります。

間違いではないのですが、今回調べてみて、私は少し心配になりました。

というのも、普通の冷蔵室とチルド室では、温度が違うからです。

先ほどの岐阜県の研究を、もう少し詳しくご紹介しますね。
クリシギゾウムシの卵が産みつけられた栗を、温度を変えて保管した実験です。

0℃や3℃で保管した場合、
2週間までは卵が孵化しませんでした。

3〜4週間たつと孵化はするものの、
幼虫は死んでしまい、果肉への被害を防ぐことができました。

ところが、6℃では2週間後に3mm程度の幼虫が確認されています。

わずか数℃の違いで、こんなに結果が変わるんですね。

では、家の冷蔵庫は何℃くらいなのでしょう。

一般的な目安としては、

  • 冷蔵室:2〜6℃くらい
  • チルド室:0〜2℃くらい
  • 野菜室:3〜9℃くらい

とされています。

もちろん、機種や設定、食品を置く場所によっても変わります。

記事に「チルド室」と書いてあっても、
「あ、冷蔵庫に入れておけばいいのね」と理解して、
普通の冷蔵室に何週間も入れてしまったら。

甘くなるどころか、中で幼虫が育ってしまうかもしれません。

岐阜県の研究では、収穫後すぐに0〜3℃で保管することが勧められています。

この結果を踏まえると、家で栗を保管するなら、
冷蔵室より0℃付近のチルド室のほうが安心だと私は考えています。

茨城県笠間市の栗の案内でも、
ポリ袋に入れて口は縛らずに折るだけにし、
0℃付近のチルド室で保存する方法が紹介されていました。

栗は冷蔵庫のチルド室で保管

では、チルド室に何週間も入れておけば、
産地で熟成させた栗のように甘くなるのでしょうか?

ある程度甘みが増す可能性はありますが、
家庭の冷蔵庫はドアの開け閉めで温度が変わりますし、
専用の貯蔵庫ほど厳密に温度や湿度を管理できるわけではありません。

品種によっては、長く貯蔵するのに向かないものもあるそうです。

それに、買った栗がすでに生産者さんのところで熟成済みだったら、
さらに寝かせる必要があるのかも考えたいところです。

私は、どんな状態の栗なのかわからないまま、
家庭でやみくもに何週間も寝かせることはおすすめしません。

チルド室は、あくまですぐに処理できないときの一時的な保存場所。

買ったらできるだけ早く処理するのが、基本だと思っています。

すぐに処理できないとき、私がしていること

では、すぐに処理できないとき、
私自身はどうしているか。

私の場合、すでに熟成されて食べ頃になっている栗を買っていることもあって、
どうしてもすぐに処理できないときは、冷凍しています。

軽く洗って水気をしっかり拭いたら、
冷凍用のジップロックに入れ、
できるだけ空気を抜いて冷凍庫へ。

使うときも、自然解凍はしません。

渋皮煮なら、凍ったまま熱湯につけてから鬼皮を剥きます。

冷凍には賛否あると思います。

でも、私自身は、冷凍すると鬼皮がとても剥きやすくなるという実感があります。

栗ご飯を作るときには、鬼皮も渋皮も剥きやすくなるので、
下処理がずいぶん楽になります。

「でも、冷凍すると渋皮まで取れてしまって、渋皮煮には向かないんじゃない?」
と思う方もいらっしゃるかもしれません。

確かに、渋皮煮は渋皮を残して作るお菓子ですから、そこは気になりますよね。

でも、私の経験では、渋皮の取れやすさは、
冷凍するかどうかだけでなく、
品種によるところも大きいと感じています。

冷凍した生栗

例えば「ぽろたん」という栗をご存じでしょうか。

ぽろたんは、加熱すると渋皮が剥けやすい品種です。
栗ご飯にはとても便利ですが、
渋皮を残したい渋皮煮には、向いてません。

渋皮煮を作るなら、まず品種を間違えないこと。

そのほうがずっと大事だと思っています。

ちなみに、今回調べていた茨城県の研究の中にも、
低温で貯蔵して甘みを増した栗を、
その後冷凍しておく方法が紹介されていました。

こちらは焼き栗用の長期保存についての研究です。

冷凍したまま加工でき、冷蔵だけで保存した栗よりも焼き栗の食味評価が高かったそうです。

もちろん、焼き栗と渋皮煮では加工方法が違いますし、
研究では冷凍前に栗に傷を入れるなど、
私の方法とは条件も異なります。

ですから、この結果がそのまま渋皮煮にも当てはまるとは限りません。

それでも、低温で熟成させた栗を冷凍保存するという考え方が、
産地でも研究されているのは興味深いですね。

もちろん、冷凍したからといって、
すでに傷んだ栗が元に戻るわけではありません。

できるだけ良い状態のうちに冷凍することが大切です。

まとめ:美味しい渋皮煮は、栗を手にした瞬間から始まっています

渋皮煮を作る様子
渋皮煮を作る

栗は生もの。

硬い鬼皮に包まれていて、
中の状態が見えないからこそ、意識しておきたいことです。

乾燥、痛み、虫。

どれも、時間や保存温度によって影響を受けます。

そして、手元に来る栗は、取れたてのものもあれば、
殺虫処理されたもの、低温で熟成されたものもあります。

今回改めて調べてみて、
私自身、栗という素材への見方が少し変わりました。

渋皮煮がうまくいかなかったとき。

煮方やお砂糖のタイミングを見直す前に、
その栗をいつ買って、どう置いていたかを、
一度思い出してみてください。

お菓子を仕事にするなら、作り方と同じくらい、
素材がどんな背景で手元に来たのかを知っておくことも大切だと思います。

美味しいお菓子作りは、材料を手にした瞬間から始まっているんですね。

参考にした資料

今回の記事を書くにあたり、以下の農業研究機関や自治体の資料などを参考にしました。

虫と保存温度について

乾燥・カビ・腐敗について

殺虫処理と熟成について

家庭での保存と冷凍について

品種について

お知らせ:ブッシュ・ド・ノエル マロン&フランボワーズ

最後に、栗つながりで少しだけお知らせです。

今年のクリスマスレッスンは、栗の渋皮煮をたっぷり使った「ブッシュ・ド・ノエル マロン&フランボワーズ」。

マロンムースにフランボワーズとホワイトチョコのムースを重ね、仕上げはマロンクリームをたっぷり絞った、華やかなクリスマスケーキです。

現在、動画レッスンを先行販売中です。

10月31日(土)までは、通常7,700円のところ、10%OFFの6,930円。

さらに先行販売特典として、私の「栗の渋皮煮のレシピ」もお付けしています。

また、内藤さんの栗で作った渋皮煮を使って仕上げる、少人数の対面レッスンも予定しています。

レッスンの詳細はこちらからご覧いただけます。

▶ お菓子の説明とレッスンの案内はこちら

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