桜のお菓子が好きな私たちは、いったい何の香りに惹かれているのか

3月に入ると、デパートも街中も一気にピンク色に染まりますよね。

桜フェアと称して、なんでもかんでもピンク色の食べ物が並ぶ季節。
もちろん定番は桜餅ですが、最近は洋菓子の世界でも桜フレーバーがすごく増えました。

日本人って、やっぱり桜が好きなんだなと思います。

楽しめる期間がとても短くて、
花が散ってしまうと、あれほど並んでいた桜の商品も、途端に見向きもされなくなります。
どれだけ美味しくても、綺麗でも、です。
桜の花びらとともに散って、きれいさっぱりなくなっていく。
その潔さもまた、なんだか日本人らしいなと感じます。

私が最初に作った桜の洋菓子

そんな桜フレーバーが洋菓子の中にも当たり前に出てくるようになったのは、いつ頃からだったでしょうか。

私が一番最初に作ったのは、製菓学校を卒業したころ、桜のフィナンシェでした。

桜の花の塩漬けを一つ、フィナンシェの上にポンと乗せて。四角い型の上にワンポイントになった見た目がなんとも可愛らしくて、そしてこの微妙な桜風味が洋菓子にも合うんだな、と気づいたのがその頃のことです。

でも、そもそも桜風味って何なんでしょう。

桜の花は、実はそんなに香らない

桜は花ですが、お花見のときにバラのように顔を近づけて香りを嗅いでも、はっきりした香りはあまり感じません。

では、桜のお菓子を食べたときに感じる、あの「桜らしさ」は何なのか。

その正体は「クマリン」という成分だそうです。
これは調べてみてわかったことなのですが、なかなか面白い話でした。

クマリンは桜の花にも含まれていますが、より多く含まれているのは葉のほうです。
そして生きた状態の花や葉からはこの香りは出てきません。
塩漬けにしたり、乾燥させたりして細胞が壊れることで、はじめてクマリンという香り成分が現れる。

つまり、私たちが「桜っぽい」と感じているあの風味は、桜の花そのものの香りではなくて、桜餅の葉っぱの香りなんです。

もっと端的に言ってしまうと、桜の葉の塩漬けの風味。
あれを私たちはいつの間にか「桜の風味」として記憶しているのではないでしょうか。

クマリンはシナモンやトンカ豆にも含まれている

ここからが、洋菓子をやっている私にとって面白かった話です。

このクマリンという成分、実はシナモンやトンカ豆にも含まれています。

トンカ豆をご存知でしょうか。
洋菓子をされている方なら馴染みがあるかもしれません。
3〜4センチくらいの細長い黒い豆で、乾燥した状態で売られています。これを砕いて牛乳に香りを煮出して、そこからカスタードクリームやソースを作る。バニラと同じような使い方で香りを抽出するということを、洋菓子の世界ではよくやります。

つまり、クリームや牛乳に香りを移して使う素材なわけです。

そう考えると、クマリンの香りは、もともと洋菓子と相性が良かったんだなと腑に落ちます。

特に乳製品との相性がいい。ヨーロッパでもトンカ豆を使ったムースやクレームブリュレがありますし、私自身もレアチーズケーキやムースに桜を入れたりしています。

とりわけチーズとの相性はいいと感じます。バスクチーズケーキの桜味なんて最近よく見かけますよね。あれ、やっぱり合うんですよ。

桜といちご。旬を重ねるということ

桜の時期は、ちょうどいちごの時期でもあります。

同じ時期の旬のものを組み合わせるというのは、日本料理ではよくある考え方ですが、洋菓子や和菓子でもこの桜といちごを合わせるパターンはよく見かけます。
色的にもピンクと赤で春らしい組み合わせですし、見た目だけの話ではなく、いちごと桜の香り(クマリン)は相性がいいんじゃないかと個人的にずっと思っていました。

それで調べてみると、実はいちごにも微量ながらクマリンが含まれているそうです。

さらに面白いことに、ヨーロッパにはドイツの「マイボウレ」という春の伝統的な飲み物があって、白ワインにいちごと、クマリンを多く含むハーブ(ウッドラフ)を漬け込んで香りを楽しむものだそうです。

つまり、いちごとクマリンの香りという組み合わせは、ヨーロッパでも昔から春の定番ということらしいです。

桜の葉と桜の花、パウダーの使い分け

ここからは少し実践的な話です。

私が動画レッスンでご紹介している桜のチーズケーキ「フロマージュ・サクラ」では、桜の花ではなく、桜の葉のパウダーをメインに使っています。
さきほどお話ししたように、桜の葉のほうがクマリンを多く含んでいるからです。

桜の葉のパウダーは色こそくすんだ緑色ですが、香りと風味はしっかり出ます。
一方で、最近は製菓材料店で桜の花のパウダーも売られています。こちらは上品なピンク色で、多少クマリンの香りもありますが、葉のパウダーに比べると風味は控えめです。

ですから、風味づけには桜の葉のパウダー、デコレーションには桜の花のパウダー、というふうに使い分けると、香りも見た目もちょうどよく仕上がります。

色も香りもほしいときに便利な素材

もうひとつ便利なのが、桜の花と葉の塩漬けをペースト状にした材料です。

これは葉の風味を活かしつつ、桜らしいピンク色も出せるように作られていて、ムースのようなお菓子にはとても使いやすい素材です。

私のレシピで「桜といちごのアントルメ」では、この桜のペーストとホワイトチョコレートを合わせて、ムースに仕立てています。

桜の塩味は、甘いお菓子の「旨味」になる

桜のお菓子を作るときに、もうひとつ大事だと感じているのが塩味です。

桜の葉のパウダーは、もともと塩漬けされたものを粉にしているので、クマリンの香りだけでなく塩味もあります。お菓子に使うとき、この微妙な塩気がまさに旨味に変わるんです。

もちろん使いすぎればしょっぱくなりますが、適度に使うと、甘さをただ強く感じさせるのではなく、味を立体的にしてくれるのです。

たとえばホワイトチョコレート。美味しいけれど、ビターチョコレートのような苦味がないぶん、甘すぎて苦手という方もいらっしゃいますよね。そのホワイトチョコレートの甘さに、ほんの少し塩味の効いた桜の風味を合わせると、これが驚くほど相性がいい。

動画レッスンでご紹介している「桜といちごのアントルメ」は、まさにこの組み合わせです。先ほどお話しした桜のペーストとホワイトチョコレートで作ったムースの中に、いちごのジュレを閉じ込めています。

春らしさだけでなく、味としてもきちんとまとまる組み合わせだと思っています。

土台にはよもぎを。和の発想で仕上げる

この桜といちごのアントルメでは、土台の部分にちょっと意外なものを使っています。
鮮やかな緑を出すために、よもぎを使ったクランブルを仕込んでいます。

桜とよもぎ。和菓子では定番の組み合わせですが、これを洋菓子のアントルメに持ち込むと、また違った面白さがあります。

桜、いちご、ホワイトチョコレートという洋菓子らしい流れの中に、よもぎが入ることで、和のテイストが入るその感じがとても好きです。

よもぎが苦手な方もいらっしゃると思うので、レッスンでは抹茶に置き換える方法もご紹介しています。

桜のお菓子を作るとき、知っておくと役に立つこと

桜のお菓子は、ただ桜色にすればいいものではないのだと思います。

何を使うと香りが出るのか。
何を使うと見た目が整うのか。
塩味をどう生かすのか。
どの素材と合わせると、桜らしさが自然に引き立つのか。

そういうことを少し知っているだけで、仕上がりはかなり変わってきます。

桜の花だけを見ているとわからないことも、葉の存在や、香りの成分、乳製品との相性まで考えてみると、急にお菓子作りが立体的になります。

動画レッスンのご案内

今回お話しした桜のお菓子、どちらも動画レッスンでご紹介しています。

「フロマージュ・サクラ」は、桜の葉のパウダーを土台とチーズクリームにしっかり効かせたレアチーズケーキ。
「桜といちごのアントルメ」は、桜のペーストとホワイトチョコレートのムースにいちごのジュレ、よもぎのクランブルを合わせた一品です。

桜といちごのアントルメのレッスンでは、桜の葉のパウダー、花のパウダー、ペーストなど、桜の色や風味をどう出すかという材料の使い分けについてもお話ししています。

作り方だけではなく、なぜその材料を使うのか、どう考えて選ぶのか、そういう部分も含めて学んでいただける内容です。

桜の商品を自分でもいろいろ作ってみたい方には、きっと参考になると思います。

桜は、咲いている時間が短い花です。
だからこそ、その時期だけのお菓子にも、特別な気持ちが宿るのかもしれません。

桜の時期限定でセール中です。STORESのページをぜひご覧ください。

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